<本>殺人鬼がもう一人 若竹七海
若竹七海さんの作風はちょっと肌に合わなくて避けていたのだけど、読書ブログを見て面白そうだなー、とチャレンジ。
結果、面白かったです!
「全員、悪人」を地で行く話。
警察官や善良な市民の顔をしながら、しれっと悪いことをやってのける人たちばかり。
ここまであっけらかんとしてると、かえって小気味よくなる。
「ピカレスクロマン」と評してる方がいたけど、まさにそんな感じ。
<ネタバレ>
「ゴブリンシャークの目」
のっけから話の詳細がわかってないのですが、雪舟の絵はどこへ行ったんでしょうか・・・?
木箱の焼け残りがあった、とのことだけど、ハツエ刀自がみすみす絵を焼いちゃうわけはないよね。
こっそり売ったのかしら。しかしそれでは結局足がついちゃいそうだし。
「黒い袖」
これは想像しなかったオチ!
どたばたが続いてゆくので何かあるかもとは思ったけど、こういうところに落ち着くとは。
伏線は巧妙に張ってあるけど、なにせどたばたにまぎれてしまいます。
思春期は不良だったという描写があったので、そこから更生して警察官の道へ・・・、という話だと思ってたら。いやはや。
まあでも、この話の主人公は「悪人」ってほどではないかな。
「きれいごとじゃない」
上手いタイトル。
突然警察に介入されて迷惑で被害者・・・、ってトーンでさらっとひどいことを淡々と述べる語り手がすごい(ほかの話もそうだが)。
ラストはこれまたびっくり。
しかしこのあとどうするんだ・・・、来年はおせち配れなくなっちゃいますね(そういう問題ではない)。
「葬儀の裏で」
この話が一番好き。
地縁と血縁で結ばれた一族の思い出。
今やみんな自分の娘・息子を「本家」の跡取りに据えようとすり寄ってきて・・・、と思いきや、ラストは一族結託するあたりが面白かった。
ちゃんと最初のあたりに「サクラちゃんは手先が器用なんだ」って、伏線が引いてありましたね。
「殺人鬼がもう一人」
登場人物みんな悪人(「黒い袖」以外)のこの話の中で、唯一の被害者がこの主人公。
殺し屋が被害者で可哀想、というのもすごいけど(苦笑)
別荘に入ったクリーニングサービスはあの会社ですよね?
最後、幻聴や幻想が入り組んで、なにが正しかったのかよくわからなくなってるけど、冒頭のやりとりも幻だったのか・・・。
<本>中野のお父さんは謎を解くか 北村薫
『中野のお父さん』続編。
前回は各編のタイトルが「漢字1文字+ひらがな1文字+漢字2文字」で揃えられてたけど、今回は「縦か横か」や「水源地はどこか」など問いかけで統一。
題名もそれに揃えたのかな。
相変わらず桝田ミリさんのイラストが良いです。
<ネタバレ>
「ガスコン兵はどこから来たか」が面白かった。
今はインターネットで検索すれば知らない言葉でも出典が判ったりするけど(分からない場合ももちろんある)、ひと昔前は経験というか教養というか、偶然の出会いとかで見つけるしかなかった時もあったんだよね・・・。
しかし太宰の文体すごい。現代的というか、現代を超越してるというか。
「縦か横か」
雑誌の投稿が元ネタ、しかし見つけられなかった、とのことですが、小説化されたことで手がかりが発見されたりしないかな?
「火鉢は飛び越えられたのか」、時間経過とともに話は「盛られて」いくものだ、ということで、人の心理はいつの時代も同じ・・・、と、面白かったのですが、これに限らず「文芸の謎」ものは、小説というかたちにしなくてもいいんじゃないかと思った。
北村さん自身が探偵役として、文芸の謎を解いていく記録(エッセイ)という形式でいいんじゃないだろうか。
「文芸探偵」なんて恰好いいじゃないですか!
この話にしても発端は米澤穂信さんの講演会での発言がきっかけだったみたいだし、むりやり小説中に「現在活躍中の作家さんが~」とか出すより、実名でエッセイの方が面白いと思うのですがどうでしょう。
<本>夜行 森見登美彦
10年前、鞍馬の火祭りの夜、仲間の一人の女性が消えた。
そして10年後の今日、また仲間たちが集まった。
仲間たちはそれぞれの旅の思い出を、旅の「夜行」を語りだす・・・。
それぞれの旅の語りのパートは怖かった!
「裏森見」を感じました。
それだけに、最終話の明るさにはほっとした。
話全体が『熱帯』に似てるなー、と思いました。
「祭りの夜に消えた人」「それぞれに語られる物語」とか。
インタビューか何かで読んだところによると、森見さんは2011年くらいにそれまで抱えてた複数の小説の続きが書けなくなり、一気にストップして、その後続きを書いて『熱帯』を出した、とのこと。
この『夜行』も2011年以前に雑誌に掲載されて、その後「再構成、全面改稿」とのことなので、影響というか同じような傾向になったのかもしれない。
<本>傘をもたない蟻たちは 加藤シゲアキ
加藤シゲアキ作品は『できることならスティードで』を読んだだけで、本格的な小説は初めて。
これは作者初の短編集、だそう。
青春ものあり、ちょっとしたSFあり、とバラエティに富んでて楽しく読めました。
1編以外はセックス描写があるのは意図されたものなのか・・・?
「undress」はタイトルが洒落ている。
内容としては、そう上手くいくかな?という疑問はあるけど、どうなってるんだ?どこへ話が展開していくんだ?とひきつけられるものはありました。
「にべもなく、よるべもなく」は青春のなんというかもてあまし感みたいなのがいい。
欲を言えば、もうちょっと工藤先輩に出てきてほしかったな。
次は長編を読んでみよう。
<本>君に読ませたいミステリがあるんだ 東川篤哉
恋ヶ窪学園シリーズだ!と思ったけど、あのシリーズは「恋ヶ窪学園探偵部」らしい。
これは文芸部が舞台なので、番外編というべき?
文芸部部長の水崎アンナに、美少女・水咲アンナが探偵役の学園ミステリを読まされる僕、という展開。
作中作ミステリで、これなら普通の学校で殺人事件がバンバン起こっても不自然じゃないし、事件に素人が関与することもできる。なるほどー。
作中の水咲アンナがやたらと美少女!頭脳明晰!人に慕われる!!と礼賛されまくっているのも笑える。
水崎部長もちゃんと美少女ではあるのですが、「美人だけどそれを思わせないコメディキャラ」という東川作品のヒロインだな・・・。
<ネタバレ>
作中作ミステリの仕掛けには、なるほど!気づかなかった!と膝を打ちました。
・・・が、「それで・・・?」となってしまうのも確か。
この仕掛けがもうひとひねり、なにか事件につながってほしかったなー。
あと、ラストの展開にはひどい!と思った。
恋愛として成就してくれというわけではないけど、人の思いに対してその反応はどうだろう・・・、いや、水崎部長もエキセントリックだから、それを素直に受け止めるわけにも、というのもわかるんですが。
と、思ってたら、東川先生のインタビュー記事を読んだところ、
当初「僕」は霧ヶ峰涼のつもりで書いていた、と・・・。
しかも「僕」は男か女が分からない!?
そうなってくるといろいろと話が違ってきますよ、先生・・・。
なんか複雑な読後感でした。
<本>中野のお父さん 北村薫
編集者の娘と博学な父、疑問や謎が浮かぶ度に中野の実家に帰って「お父さん」に相談すると見事な答えが・・・。
『中野のお父さん』というタイトルだと、自分の父親を指してる感じがしないので、何か意味があるのかと思っていたんですが、ふつうに実家の自分のお父さんでしたね。
(「中野にいるお父さん的存在の人」とか、「中野に住んでる義理の父」とかそんなイメージだった)
ちょっと理想的すぎる父娘関係という気もしますが、まあ仲のいい親子だったらこんなもんか、という感じでもあり。
表紙の益田ミリさんのイラストが作品の雰囲気に合ってていいなあ。
作中の編集者エピソード(雑誌の取材とか)は、担当編集さんに取材したのかなー、とか考えながら読みました。
<ネタバレ>
「幻の追伸」
これ、古本屋のご主人が思慮深い人だったからおもてに出なかったけど、そういうこと気にしなかったり、逆にゴシップ大好き!みたいな人だったら大変なことになってそうですよね・・・。
単純に遺族が見つけて誤解する・ショック受けるということもあるだろうし。
変な誤解を生むような物証は残しておいちゃダメだな、と思いました。
「闇の吉原」
架空の作家名が続いていたところに、泡坂妻夫の名前が出てきたのでびっくりした。
ちょうどここのところ倉知淳作品・櫻田智也作品を読んで、泡坂妻夫のことを考えてたのもあったし。
『煙の殺意』また読みたくなりました。
「冬の走者」
これ、普通にミステリーのアリバイトリックとして使えるのでは?と思ったけど、警察が介入してくると監視カメラとかでバレちゃうかな・・・。
せっかくなのでもうひとひねりしたオチ(理由)が欲しかった。