<本>熱帯 森見登美彦
私ー奈良に住む作家「森見」ーは、『千一夜物語』を読んでいるうちに、学生時代に読んだ本『熱帯』を思い出す。
上京の際に参加した「沈黙読書会」でその『熱帯』を持つ女性を発見するが、「この本を読み終わったものはいない」と謎の言葉を告げられる。
そこから語りだされる『熱帯』をめぐる物語は・・・。
面白かった!あっという間に読んでしまいました。
恩田陸の『三月は深き紅の淵を』を思い浮かべました。
本を愛する人たちの読書会、謎のエピソードがまつわるいわくつきの本、次から次へと生み出される物語。
東京の風景の描写が新鮮でした。
「詭弁論部」とかが出てくるので、ああ、森見ワールドなんだな、と。
いったいどうやってこの話をまとめるのか?と思ったら最後でちゃんと話がまとめられていてほっとしました。
この手の物語って風呂敷を広げるだけ広げて、最後たたみようがなくなって放り出す!みたいなものが多いけど、これは一応のたたみ方をみせていたんじゃないのかと。
「白石さん」サイドの物語をもうちょっと読みたかった気がするけど、それこそ、それぞれの『熱帯』という物語なのでしょうね。
作中に出てくる同名の本と同じ装丁になっている『はてしない物語』と同じように、装丁も作中の『熱帯』と同じように「赤や緑の幾何学模様」にすればよかったのに・・・、と思っていたのですが、「後記」を読んで、(そうか!)と納得。
思えば『はてしない物語』も、途中で本流とは違うエピソードが語られそうになり、そのたびに「それはまた別の物語」と、この先に物語があることを示唆されるんだけど、
あれは「物語の中で物語が語られる」入口だったんだなー。
シェアードワールドノベルじゃないけど、あの続きを書いてる人とかいるのかしら?
読み終わった後で文藝春秋のサイトを見たら『熱帯』の特設ページがあり、発売当初に行われた「作中のバーになぞらえた実在のバーをめぐるスタンプラリー」とか、「『熱帯』についての沈黙(しない)読書会」とか面白そうな企画がいっぱい!
やっぱり本も発売すぐの新鮮なうちに読んどくものだなー、と痛感しました。