椿 読書録

読書とその他楽しみの記録です。

<本>街角には物語が・・・ 高楼方子

城壁に囲まれ、街並みには古い時代の面影を残し、観光客もやってくる「旧市街」。

その旧市街の中で暮らす人々の物語・・・。

 

古い街並みを舞台に、1話ごとに主人公が変わる連作。

舞台は共通してる(通りの名前やお店の名前とか出てくる)けど、人物はほとんど再登場しないな・・・、と思っていたら、最後の話に今までの登場人物大集合!

フィナーレって感じでよかったです。

「終点まで」に出てくる、学生時代からの友人である中年女性2人は、最終話では女学生時代の2人として登場するので、「終点まで」は2,30年先の未来の話なのか?

最初と最後の話の主人公である「ピッパ」は妄想好きですぐお話を作っちゃう少女なので、ひょっとしたら各話はピッパが旧市街で見かけた人々を題材に、頭の中で作り上げた物語だったのかもしれないな・・・、と思いました。

 

高楼方子さんの作品は、舞台設定もキャラクターもまさにファンタジー!って感じなのに、その心理描写がすごく現代的というかシリアスというか、「あるある!」って感じなんですよね。

「つまりほかに親しい友人ができて、自分がないがしろにされるかもしれないといったークート君はそういう目にあいやすいたちだったー心配なしに、安心して交際することができたのだった。」

このくだりなんか、わかるわー!と思ってしまう。同時にちょっと胸がいたい・・・。

この「胸の痛さ」が常にあるので、高楼方子作品を読む時にはちょっと覚悟がいる・・・。

<本>歩道橋シネマ 恩田陸

恩田陸さんが定期的に出している「ノン・シリーズ短編集」。

あとがきにも書いてあるけど、直木賞本屋大賞の受賞で発行の間が空いたのかな?

あとがきで作品解説をしてくれているので嬉しい。掲載誌や執筆の事情なども分かるので。

 

「球根」

『チューリップ回路』なる長編(まだ書かれてない)のスピンオフということだけど・・・、学園の設定を見て(恩田作品だなー!)と思いました。

たしか『三月は深き紅の淵を』にマンガ『聖アリス帝国』の話が出てくるけど、ずーっとそういう世界観(学校観)が基本にあるんだなー。

 

「悪い春」

妙なリアリティがあって怖い。「複数の、ティーンエイジャーの子を持つ親から『現実になりそうで怖い』と言われた」とあとがきにもある通り、こういう状況を淡々と書く恩田さんの筆致は怖い。『東京の春』を思い出す。

 

「麦の海に浮かぶ檻」

『麦の海に浮かぶ果実』のスピンオフ。

『麦の海に~』シリーズは番外編が多いなー。設定として番外編が書きやすいんでしょうね。

新本格30周年記念で書かれたそうで、ミステリのタネとしては正直弱い気がするけど、恩田作品はミステリではなく「世界」を楽しむ小説なのだと思う。

 

表紙のジャンクションの写真が印象的だな、と思ったら、デイリーポータルZのライター大山顕さんの写真だった!

カバーと表紙で写真を変えてる・・・。

中表紙もトレーシングペーパーの裏側に印刷したり、装丁が凝ってるなー。

<本>凶鳥の黒影 中井英夫へ捧げるオマージュ

『虚無への供物』&作者の中井英夫に対するオマージュ小説&エッセイを収めた本。

中井英夫没後10年の企画だったのかな?

こんな企画本が出ていたとは知らなかったので、読むのがすっかり遅くなってしまいました。

小説もエッセイも「中井英夫」テイストにあふれていて楽しい。

有栖川有栖先生の「彼方にて」は最後の仕掛けで、そうだったのか!と世界が反転するような感じが良い。

皆川博子さんの「影を買う店」は先にネットで感想を読んでしまったので、モデル?と思われる人物があらかじめ分かってしまってからだったのが残念・・・、自分が悪いんですけど。

三浦しをんさんのエッセイは「久生のおしゃれぶり」について触れていて、そうそう、そこがいいんですよねー!と話しかけたくなる同感。

昭和中期のお嬢さんっぷりあふれる服装の数々(その描写)たまりませんね・・・、和服姿の描写が特に好き(真っ白なシールのコートなんて!)。

『虚無への供物』がテレビドラマ化されたことがあると聞いて(どんな出来だったんだ・・・)と戦々恐々としてたのですが、長野まゆみさんが褒めてて驚いた。

なんとなく長野さんはそういうものけなしそうな気がしてたので・・・(個人の偏見です)。

「もともと吹越さん目当てで見たのである。説明がなくても吹越さんの演じる役は『両利き』と決まっている。」というくだりが、うわあ、この自分勝手な論理を平然と当然のように言い放つ(反論は受け付けない)、長野節だなあー!!となつかしさを感じました(笑・長野まゆみさん好きです)。

本多正一さんの「あとがきにかえて」が、『押絵と旅する男』と『虚無への供物』のオマージュになっていてとてもいい。文章うまいな・・・。

 

タイトルの『凶鳥の黒影(まがとりのかげ)』は『虚無への供物』の登場人物が「これから書こうと思っている」と嘯く小説のタイトルなのですが、この『凶鳥の黒影』自体を書いた人はいなかったんだな・・・、とふと思いました。

いや、ものすごい長大巨編になってしまうだろうからとてもアンソロジーには入らないでしょうが・・・。

<本>作家の人たち 倉知淳

「作家と編集者、出版社」をテーマにしたブラックショート小説集。

自虐的な寡作ミステリ作家ネタが出てきたり、出版界の内側暴露?的なネタがあったり。

これはあの人だろうなー、と思わせるもじった作家名や出版社名ににやにやしてると、急に実名が出てきて、驚いたり。

もじった固有名詞はほかの話でも出てくるので、なんとなく世界観がつながってるんだろうなー、とか、この賞主催するんだからやっぱりモデルはあそこだよね、と納得できたりして楽しかったです(笑)

 

幻冬舎のWebで倉知さん代理(?)の作家さんと編集者の対談記事があったのですが、

www.gentosha.jpそれによればやはり倉知さんはデビュー直前まで役者業をやっていたと・・・。

決行大きい劇場の名前が挙がってるので、「商業演劇にその他大勢として出演」という感じだったんでしょうか(ミュージカルでいうアンサンブルみたいな)。

劇団主催したり所属したりって感じではなかったのかな・・・、いや、それをやりつつ商業演劇に出るというのももちろんあるだろうけど。

年齢を見るとちょうど30歳くらいで作家デビューしてるんですね。

ほんとに「猫丸先輩」だなあ・・・。

あと、デビューしたころは「1年に1冊本を出せば、それで1年食っていける(節約生活だけど)」収入が入ったそうです。

「冷蔵庫が空になるまで仕事をしない作家」という言われ様はあながち外れてもいないのかも。

 

 

<ネタバレ>

 

「押し売り作家」

出版社の名前のもじりが楽しくてにやにやしてたら、まんまとひっかかってしまいました。

まさか「倉ーなんとか」さんが複数いるとは思わなかったよ・・・。

しかし改めて表紙を見ると、ばっちりネタバレしてますね。

 

「夢の印税生活」

読んでてけっこうつらかった・・・。

「受賞したからといってすぐに会社勤めを辞めちゃダメ」と編集者に言われた、というのは、『私がデビューしたころ』にもありましたなあ。

有栖川有栖さんは勤め先を辞めて専業作家になる決心をしたときに、印税と収入を計算した、とエッセイに書いてましたね。

特に書店チェーンに勤めてたからそこらへんの計算もシビアだったんだろうなー。

 

「らのべっ!」

これもつらかった。

編集者が対象への愛情なく、効率だけでばりばりやって出世していくタイプなんだな、と思えば思うほど周囲のあれこれが悲しい・・・。

「先生」が文章を書く方ではなくイラストレーター、というひっかけもありましたが、これも「文はどうでもいいからイラスト重視」ということで悲しい・・・。

 

文学賞選考会」

又吉さんに似た名前があるなあ、とは思っていたのですが、そうきたか。

これはそれほど読後感がつらくありませんでした。

主人公が周りを出し抜いてやるぜ、という野望を隠しもってたからか?

<本>森見登美彦の京都ぐるぐる案内

森見登美彦作品の舞台や関連する場所などを集めた、京都ガイドブック。

森見作品によく出てくる京都大学下鴨神社鞍馬山のあたりって、私はほとんど行ったことのないエリアだったので、写真と地図で図解されてて理解が深まりました。

ちょっと残念だったのは、「新釈 走れメロス」で芽野が京都市内を逃げ回った道順が記載された地図が載ってなかったこと。

『新釈 走れメロス 他四編』のサイン会では図解地図が掲示されてたそうなので、見たかったなー。

読んでたらまた京都行きたくなりました。はやく自由に旅行行けるようになるといいな。

 

巻末に著作リストがあるのですが、『聖なる怠け者の冒険』と『夜行』が「Coming Soon」(2011年)になっている・・・。

この本が出たのが2011年の6月。

いろいろと長い時間がかかったんだなあ・・・。

<本>わたしがデビューした頃 ミステリ作家51人のはじまり(東京創元社)

ミステリ作家のデビューにまつわるエッセイ。

辻真先御大から始まって、デビュー時代順に並んでいるのが、時代の移り変わりも感じさせて面白い。

デビュー作の書影もカラー口絵でついていて、デザインや色使いに時代を感じます。

倉知淳さんのデビュー顛末を詳しく知りたかったのが第一目的だったんだけど、芸術座の舞台に立ってたとは・・・。

改めて学歴見ると「日大芸術学部演劇科卒」だから納得はできるんですが、そこからミステリ作家へ、というのがやっぱりすごいよなー。

東川篤哉さんが競馬が好きだとは知らなかった・・・。野球は作品中でネタとして出てくるからお好きなんだろうと思ってはいましたが。

中央線西側ユーザーだったんだな、というのが確認できて満足。

石持浅海さんがしばらくの間兼業作家だったというのにはびっくりでした。

かなり刊行スピード速くなかった!?

 

まえがきにもある通り、なかなかデビューできなくて悪戦苦闘した人もいれば、するっと本を出せることになった人もいて、ほんと人それぞれ。

読んでいて思ったのは、「人とのつながり」って大事だなー、ということでした。

いわゆる名門の大学ミステリ研に入っていて、そこのOBで作家や編集者がいるとか、憧れの作家にファンレター出してやりとりしてるとか。

そのあたりの縁で声かけてもらったり、習作を雑誌に載せてもらったりとかあったようなので、ご縁はやっぱり大事かな、と。

<本>蚕の城 馬場明子

ノンフィクション。

筆者の馬場さんはもともと九州放送のディレクターだったらしく、九州関連のノンフィクションをよく書かれてるみたいです。

これは九州大学の蚕の「系統保存」を中心に、明治~昭和の養蚕と蚕の研究をまとめたもの。

明治時代の養蚕は一大産業だったといわれるけど(絹のもとになる生糸をヨーロッパに輸出しまくって外貨を稼いだらしい)、その蚕の品種改良や遺伝子研究について触れられています。

九州大学が蚕の研究の大本山で、蚕の種類を残していくことに心血を注いでいるとは知らなかったよ・・・。

『蚕の城』って『高い城の男』か?と思いましたが、研究者が大学構内にできた蚕室を「われわれの城」と書いていたところからつけたらしい。

 

自分の祖先が養蚕農家で、縁ある人もちょっと出てきたりしたので、個人的にシンパシーを感じながら読みました。